
風邪を引くとなぜパーキンソン病の症状が悪化するのか?
今回は重い風邪を引いた時に思ったこと。上記のスピンオフ的な記事である。上の記事では、
咳以外が改善しても、新型コロナ感染症後の人のように味覚と嗅覚が鈍くなった。色々なものが、いつもと味が違うと思えるほどだった。味覚があまりわからなくなると、人生が味気なくなる。
と記載している。味覚以外に嚥下が一時的に悪化し、食べた後に水をしっかり飲んで胃の中に押し込まないといけなかった。僕は重い風邪の後、パーキンソン病のようにドパミンが一時的に低下しているのでは?と思った。
しかし、時間が経つにつれ嚥下の悪化は次第に回復している。(可逆性)
既にパーキンソン病を発症している人は、風邪を引くと症状が悪化することが知られている。
単純に考えると重い風邪を引くと寝ていて動けないので、廃用性にパーキンソン病の症状は悪化しそうである。
しかし、このような機能低下以外に、風邪による炎症そのものがパーキンソン病の症状を悪化させる。風邪を引くとウィルスや細菌と戦うために免疫機能が活性化され、サイトカインと呼ばれる炎症物質が増加する。このサイトカインが、脳内のドパミンの分泌や働きを低下させ、ひいては動作緩慢になり、振戦、固縮を悪化させる。
余談だが、昔は医学の多くの研究者は炎症について研究していた。ところが癌が主要なテーマになり、彼らは一斉に癌研究に移ってしまったのである。もちろん、癌にも炎症が含まれているが、主要なテーマが炎症と癌では研究する深さが異なる。
その後、癌だけでなく膠原病を始め、癌ではない疾患の免疫研究が進み、現在のような状況に至ったのである。
炎症は、新型コロナなどの感染症や、免疫機能に由来する膠原病や間質性肺炎など多岐に渡って重要なテーマであり、実は統合失調症、躁うつ病、うつ病などの内因性疾患にも深く関わっている。
過去ログには「うつ状態が夏場に悪化する理由」という短い記事をアップしている。この悪化の理由は、夏場の暑い時期に免疫機能が低下するからと記載している。
さて、風邪によるパーキンソン病の症状悪化は、サイトカインがドパミン神経系機能を低下させるだけではなく、発熱により脳の代謝を急激に増加させることも関係する。パーキンソン病の患者さんは脳の予備能のようなものが少ないため、神経機能が不安定になり症状が悪化する。
食事が十分摂れないとか、脱水などもパーキンソン病の自律神経系を低下させ、症状を悪化させる。
その他、感染症そのものが、脳のミクログリア活性化などを引き起こし症状を悪化させると言われているが、これらはまだ十分にはわかっていない。
これらの風邪による症状悪化は、おそらく可逆性の部分が大きいと思うが、パーキンソン病の場合、回復まで時間がかかり過ぎると廃用性の部分が大きくなり、非可逆性の経過も十分にあると思う。
僕の経験も含めると、簡単にいえば、重い風邪を引くとドパミンが一次的に低下状態になりやすいのである。
この現象は、インフルエンザの大流行後にうつ病患者が大量発生ことがあるなど、日常臨床での多くの事例の説明がつく。もちろん新型コロナもそうである。
パーキンソン病や感染症大流行後のうつ病など、一般の人が時々目撃する事例だけではなく、精神科医はもう少し違った場面で、同じような現象を実感する。
典型的には、統合失調症患者さんの重い感染症後の幻聴などの症状の一時的な軽快である。
重い感染症の発病直後、中核病院に搬送するケースでは、いつもなら到底内科病棟では難しいレベルの患者さんも、感染症による症状の緩和により、なんとか内科病棟で治療できることも多い。
これは「風邪により一時的にドパミン系機能が抑制されている」ことで辻褄が合う。
統合失調症には、基本、意識障害がないのも重要である。精神疾患でもせん妄が生じる疾患では、このような処遇にはなりにくい。
将来的には、炎症や免疫の研究が進めば、まだわかっていない統合失調症の多くの謎が説明できるようになると思う。
参考
