ルーラン
一般名;ペロスピロン
日本における5つの非定型抗精神病薬の1つ。SDAの範疇に属する。住友製薬(現、大日本住友製薬)の自社開発の薬物であり本来セロトニン1A部分アゴニストであるセディール(ベンゾジアゼピン系でない抗不安薬)を基に作られている。構造式的には、ジプラシドン(本邦未発売)などの非定型抗精神病薬にみられる骨格にセディールを組み合わせた形になっている。本来ルーランはD2レセプターに親和性が強いので、一見、錐体外路系副作用が出やすそうに見える。薬物プロフィール的にもリスパダールより錐体外路副作用が出やすそうだが、臨床的にはそれほどではない。これにはいくつかの理由がある
まずルーランに含まれるセロトニン1A部分アゴニスト部分が副作用を減らす役割も果たしているようである。ルーラン(未変化体)は体内で代謝されて、ルーランの代謝物に変化する。この代謝物はヒドロキシペロスピロンであり、ID-15036と呼ばれている。実はこの代謝物こそ、理想に近い抗精神病薬なのだという。
ルーランとこのID-15036は薬物特性が異なり、ルーランを服用した場合、主にこの2薬剤の総合的な薬理作用により治療効果が発現する。ID-15036はルーランに比べD2遮断作用が弱く、それに比し強い5-HT2A遮断作用を有している。しかも、血中濃度もルーランの数倍であるため、ルーランの薬効は主にID-15036の薬理作用によるところが大きい。アメリカでは、ID-15036の方で治験が開始されている。(数年前の話、現在はよく知らない)大日本住友製薬は今のところルーランをアメリカで発売する気はないようだ。
ID-15036はルーランに比べ副作用が少なく、クロザピン(本邦未発売)の薬物プロフィールに似ているという。また、ルーランからID-15036への代謝は個人差が大きいとも言われている。ということはルーランの薬効や副作用も比較的個人差が大きいと言えるのかもしれない。治験に協力した臨床家は、ルーランではなくID-15036の方を発売することを推奨したらしいが、結局受け入れられなかったと言われている。
セロトニン1A部分アゴニスト部分は、ルーランの抗不安作用、抗うつ作用、副作用の減少に貢献している。近年、リスパダールの高プロラクチン血症が問題にされるようになってきたが、ルーランは高プロラクチン血症はほとんどきたさない。厳密に言えば、ルーランを服用した直後一過性に上がる。しかしD2受容体からの解離が早いので、すぐにプロラクチン値は下がってしまうのである。プロラクチンの持続的上昇が、乳汁分泌、インポテンツ、肥満などの有害作用をもたらすので、この点ではルーランは欠点がないのである。ルーランによる乳汁分泌はほとんど出現しない。また、リスパダール、セロクエル、ジプレキサなどが体重増加をもたらすのに比べ、ルーランは体重にほとんど影響しない。
ルーランの個人的な感想だが、副作用がわりあい少ないが、やや扱いにくいという印象がある。セロクエルに比べ作用がより安定していることは感じられる。(セロクエルも好きな薬物なんだけど) 初めて処方したとき、患者さんが眠いという訴えをすることがわりとある。抗うつ作用がいくらかあって、うつ病でうまくいかない人に併用で用いるといくらか良い場合があること。統合失調症に限らず、うつ病の人でも、さほど服用し辛くないのである。
また、抑うつを伴う統合失調症にうまくいく場合がある。それでも効果がいまひとつはっきりせず、抗うつ作用はみられるが、なんとなくいつも浮ついていて落ち着かない感じになることもある。幻覚妄想などの陽性症状、うつ状態、陰性症状のバランスが単剤投与だとうまく取れない場合がある。そんなわけで、僕の処方の場合、単剤もあるけど他の薬剤との併用の処方が比較的多い。このあたりが扱いがやや難しいと言った理由だ。
ルーランは抗精神病薬の中では半減期が比較的短いので数回にわけて処方されることが多いが、僕は1日1回処方も行っている。その人は全く問題ない。もともとD2レセプターの持続的遮断は必要性は少ないはずで、またID-15036などの存在と薬理特性も考慮している。ルーランは4mgと8mgの剤型を持ち、一般に48mgまで処方できる。換算的にはルーラン8mgはリスパダール1mgと同等とされている。(後に16㎎錠も発売されている)
ルーランは国内の製薬会社の開発であったため、薬価は、同系統のリスパダールを基準に決められた。こんなことは皆あまり知らないだろうが、ある時(数年前に)リスパダールの薬価が上がったのである。普通、薬価が下がるならわかるが、本当に上がったのであった。その結果、ルーランのみ安い薬価に置き去りにされた。ルーランは最高量の48mg処方しても、1日268円しかかからない。例えば、ジプレキサを20mg処方した場合、992円、セロクエルを600mg処方した場合、1047円かかる。ルーランは他の非定型抗精神病薬に比べ、ダントツに安いのである。僕が薬価のことをよく話すのは、僕が院長をしていて、いろいろ病院の事情などが処方に影響することがあるのを知っているからだ。(これはいつかまとめて話したい)
当初、ルーランは安価な薬物にもかかわらず、売上的にさっぱりだった。今でもそれほどは使われておらず、年間の売り上げが30億くらいらしい。リスパダールは300億くらい売れていたが、近年、リスパダールの液剤なども出たので(これは錠剤に比べ更に高価)もっと増えている。ルーランは薬価が安いのでやや額的に少なくならざるを得ないが、それを考慮してもあまり処方されていない。
今や、ルーランの最大の利点は薬価が安いことになりつつある。これは別にバカにしているわけではなく、今後、大きな利点になってくると思われる。ルーランはちょっとわかりにくい面があって使われていないところがあるから、もう少しエビデンスが揃ってくると状況は変わってくるに違いない。ルーランは住友製薬の自社製品なので、発売当時、海外でのエビデンスが全然なかった。ジプレキサやセロクエルほどの期待感がなかったのもある。精神科医からすれば、海外で定評がある薬物の方がやはり処方しやすい。患者さんからの薬物の指名があることさえある。知名度の差が大きいのである。僕は、今後、少しずつルーランも処方されるようになると思っている。(セディール、ブスピロンの項を参照)